once 10 終わりとそれから***10***あれから、二人は何度となくキスをし、抱きしめ合ったが、それ以上の関係を持つには至らなかった。 原因は、朝子の恐怖心。有芯の問題行動。 二人が別れたのは、最初のキスからわずか3週間後のことだった。 有芯が、演劇部の1年女子を部屋に泊めようとしていると知った朝子が、部屋に乗り込んで有芯を殴ったのだ。その日で二人の関係は終わり、朝子の日常も一変した。演劇には身が入らなくなり、大会ではボロボロ、夜は眠れず、昼夜逆転の生活、不登校・・・。 有芯を恨むことができたら、どんなに楽だったろう。でも恨むことなどできなかった。有芯がずっと愛しかった。その想いに、また苦しめられるのに。 運命とは、分からないものだ。そんな二人が、10年後に遠い土地で向かい合っているのだから。 洒落たテーブルに、コーヒーが2杯。午後三時の喫茶店に、二人はいた。 「有芯さぁ」 「・・・なんですか?」有芯は明らかに身構えている。それがおかしくて、朝子は思わず吹き出した。 「別に何にも恨み言なんてないよ。だから、その変に敬語使うの、やめてくれない?」 「・・・わかりました。」 「だからさぁ、」 「あの、」 「・・・なあに?」 「何で来たの、先輩?」 「なんでって・・・。旅行って言ったじゃない。」 「旅行なら、・・・なんで旦那さんと来なかったの?」 「一人で来たい時だってあるもん」 「じゃあ、何しに来たの?」 「何ってね~、目的持たずに来たっていいんじゃない?! 強いて言えば、カステラ好きだから。カステラ旅行!」 有芯はほっとした。知らない・・・よな。 「なんでそんなこと聞くの?」 「いや別に。」 朝子はニヤニヤして言った。「ねーぇ。この後暇?」 「・・・・・。暇だったらなんなんでしょう?」 「行こう!」 「え、ええ?!」 「さ、早く」 「ちょっちょちょちょちょっと!!」 「何? うるさいなぁ」 「お金・・・お前、飲み逃げする気か?!」 「あ、ごめん。すみません・・・」 朝子はすまなさそうに、代金を払った。有芯は自分が出すと言ったが、断られた。 店を出ると、朝子はどんどん歩いていく。 「先輩!? なぁ、どこ行くんだよ」 振り返ると、朝子は盛大に笑い出した。 「そのうえいきなり笑うし、わけわかんねぇ」 「あんた、さっき私をお前って言ったな~と思って」 「ああ、それは、ごめんなさい」 「別に~気にしてないし」 そう言うと、朝子はまた歩き出していた。慌てて追いかける有芯。 「だから、どこ行くんだって言ってるんだけど?」 急に立ち止まった朝子に、有芯はぶつかった。 「ごめ、つか急に止まるなよ。どうしたの?」 「遊園地・・・」 「はぁ?!」 「どこだかわかんなくなっちゃった・・・」 有芯はがくりと肩を落とした。忘れてた。この人、方向音痴だったっけ・・・。 「あのねー先輩。遊園地はぁ~滅茶苦茶遠いよ!? 車借りて、いくつもインター越えないと。歩いて行けるわけねぇだろ!?」 「よく知ってるね」 「・・・・・。」 「ああ、あんた達の学年、修学旅行こっちだったっけ?」 「・・・ああ、そうそう。」 「有芯・・・」 「何? まだ何か?」 「一緒に行って。私、車怖い」 「はぁーーーっ!? 何で俺まで行くの!?」 「暇だって言ったじゃない」 「・・・まぁ、暇と言えば暇だけど。・・・でも、今から?」 「お願い!! 私、こんな車多いところで運転したことないし・・・」 マジですか・・・。っつーかそんな目で見るな!! 断れなくなるじゃないか・・・。 「わかったよ。しょうがねぇなぁ!!」 「や・っ・た!」 二人はレンタカーに乗り込み、高速を走った。 有芯が運転中、ふと見ると、朝子が自分を見つめていることに気付いた。 「何?」 朝子は答えない。 「先輩?」 朝子は彼を見つめたまま、「・・・・・何でもない・・・」と言った。 朝子は、ずっと彼を見つめていた。 11へ |